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百戦奇略
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61 挑戦

 敵と戦うのに、城塞を築いてお互い遠く、勢力がお互い等しいときは、軽騎兵で挑んで攻めるべきだ。伏兵を置いて待っていれば、その軍を破ることができる。もし敵がこの策謀を用いたならば、自軍は決して全力で迎撃してはならない。

 兵法にいう、「遠くから戦いを挑むのは、相手に進んでほしいからだ」(孫子・行軍編)

62 致戦

 敵を来させて戦わせることができれば、敵の勢いは常に虚となる。戦いに赴くことができなくなれば、自軍の勢力は常に実となる。手を尽くして敵が来るようにし、自軍の便利な地で待てば、勝たないはずがない。

 兵法にいう、「相手を思うままにし、相手の思うままにはならない」[孫子・虚実編]

63 遠戦

 敵と水を隔ててお互い防ぎあっているとき、自軍が遠い場所から渡ろうとするときには、船などを多く用意して、近くから渡るように見せかけるべきである。そうすれば敵は必ずや兵力を集めて応じてくるから、自軍はその隙に乗じて渡ってしまう。もし船がなければ、竹や木、蒲、芦、土瓶、瓶、槍の柄などを連ねて筏を作り、みな渡すことができる。

 兵法にいう、「遠くにあって近くに見せかける」[孫子・始計編]

64 近戦

 敵と水を挟んで布陣しているときに、自軍が近くを攻めようとするときには、かえって遠くからであるようにみせかける。擬兵を多く用意して、上流・下流の遠くで渡れば、敵は必ずや兵を分散して応戦してくるだろう。自軍は潜って近くから攻撃すれば、その軍を破ることができるだろう。

 兵法にいう、「近くにあって遠くに見せかける」(孫子・始計編)

65 水戦

 敵と戦うとき、岸辺に陣を置くのも、水上に船を泊めておくのも、みな水戦という。もし水に近く陣を置く者は、できるだけ水から離れるべきである。一つには敵を誘って渡らせるため、一つには敵に疑いを抱かせないためである。自軍が戦おうと思うときには、水に近いところで敵を迎撃してはならない。それなら渡ってこれなくなってしまう。自軍が戦いたくないのなら、水を防いで阻み、敵を渡らせないようにする。もし敵が兵を率いて渡ってきて戦うならば、水辺で、敵が半ば渡り終わったところを見計らって迎撃すれば、勝利できるだろう。
 兵法にいう、「水を渡って、半ば渡ったところを撃つべし」[呉子・料敵]

 

66 火戦

 戦うとき、もし敵が草むらの近くにおり、営舎が茅や竹でできており、馬草を積んで食糧を集め、天候が乾燥していたら、風に従って火を放って燃やし、精鋭を選んで攻撃すれば、その軍を破ることができる。

 兵法にいう、「火攻を行なうには、必ず理由がある」[孫子・火攻編]

 

67 緩戦

 城を攻める方法は、最も下策であり、やむをえずやるものである。三か月で道具を整備し、三か月で対抗する盛り土を作れば、六か月かかる。自軍のために攻撃を戒める者が、軽率に攻城具を持たずに士卒を張りつかせ、死傷者が多くなることをおそれるからである。もし敵の城が高く、堀が深く、人が多くて食糧が少なく、外に救援がないのであれば、包囲攻撃して陥落させても勝利が得られる。

 兵法にいう、「その徐(しず)かなること林のごとし」[孫子・軍争編]

68 速戦

 城を攻め、都市を包囲するとき、もし敵の食糧が多くて人が少なく、外に救援があるのであれば、速攻するといい。勝つ。

 兵法にいう、「兵は拙速を貴ぶ」(孫子・作戦編)

 

69 整戦

 敵と戦うとき、もし敵の行軍・布陣が整然としていて、士卒が落ち着いているなら、軽々しく戦ってはならない。その変化をうかがって撃てば、勝利がある。

 兵法にいう、「正正の旗を迎撃してはならない」[孫子・軍争編]

70 乱戦

 敵と戦うとき、もし敵の行軍・布陣が整わず、士卒が落ち着いていないなら、急いで兵を出して撃てば、勝利がある。

 兵法にいう、「乱して取る」[孫子・始計編]

71 分戦

 敵と戦うとき、もし自軍が多くて敵が少なければ、平坦で広い地を選んで勝つことができる。もし敵の五倍あれば、三を正面にし、二を奇襲とする。敵の三倍であれば、二を正面にし、一を奇襲とする。一方は正面に当て、一方はその背後を攻めるのである。

 兵法にいう、「分けようとして分けられないのを縻軍という」[李衛公問対・下]

72 合戦

 兵が散れば勢力は弱く、集まれば勢力が強いというのは、兵家の常識である。もし自軍が数カ所に分屯しているときに、敵がもし大軍で攻めてきたならば、軍を合わせて撃たねばならない。

 兵法にいう、「集めようとして集まらないのを孤旅という」[李衛公問対・下]

 

73 怒戦

 敵と戦うとき、士卒を激励し、憤怒させてから戦いに出るべきである。

 兵法にいう、「敵を殺すのは怒りである」[孫子・作戦編]

74 気戦

 将が戦えるのは、兵のためである。兵が戦えるのは、意気があるからである。意気が盛んになるのは、太鼓のためである。士卒の意気をおこさせるのは、あまりに頻繁であってはならない。あまり頻繁だと気も衰えやすい。あまりに敵から遠くてはいけない。あまり遠いと力も尽きやすい。敵が六、七十歩いないになったところを見計らって、太鼓を鳴らし、士卒を進めて戦わせるべきだ。敵は衰え、自軍が盛んならば、必ず破ることができる。

 兵法にいう、「気が充実すれば戦い、気が奪われれば退却する」[尉繚子・戦威]

75 逐戦

 奔走するのを追い、敗走するのを追撃するには、それが本当かどうかを明らかにしなければならない。もし旗がそろっていて太鼓も応じており、号令が一つにまとまって兵力が多いときには、退却といっても負けではない。必ず奇襲があるだろう。このことを考慮しなければならない。もし旗がバラバラでそろわず、太鼓が大小で呼応せず、命令は騒々しくてそろわないのは、本当の敗北による退却だ。全力で追撃すべきである。

 兵法にいう、「追撃は怠ってはならない。敵が敗走中にとどまったときには警戒せよ」(司馬法・用衆)

76 帰戦

 敵と攻め合っているとき、もし敵が理由なく退却するときには、必ずよく偵察しなければならない。力つきて食糧がつきているのなら、軽装備の精鋭を選んで追撃すべきである。もしこれが本国への撤退ならば、とどめてはならない。

 兵法にいう、「帰国する軍をとどめてはならない」[孫子・軍争編]

77 不戦

 戦いで、もし敵が多くて自軍が少なく、敵が強くて自軍が弱く、兵勢は不利であったり、敵が遠くから来ていても糧道が絶えないなら、これと戦ってはならない。壁を堅くして持久戦に入り、疲労させれば敵を破ることができる。

 兵法にいう、「戦わないことは自軍が決める」[李衛公問対・下]

78 必戦

 出兵して深く敵の領土に入ったが、敵が壁を堅くして自軍と戦わないなら、こちらの軍を疲れさせようとしているのである。そこで敵の君主を攻め、根拠地を突き、帰路を断ち、糧道を断てば、敵もやむを得ず戦おうとするだろう。自軍が精鋭の将官で撃てば、敵は敗れる。

 兵法にいう、「自軍が戦いたいときには、敵が溝を深くし、城壁を高くしていても、自分と戦わざるをえないようにさせるために、敵が必ず救おうとするところを攻める」(孫子・虚実編)

79 避戦

 戦いで、もし敵が強くて自軍が弱く、敵が初めて来て気力も鋭いなら、避けて、敵の疲弊を狙って攻撃すれば、勝つ。

 兵法にいう、「敵の鋭気を避け、衰えているところを攻撃する」[孫子・軍争編]

80 囲戦

 包囲戦の方法は、その四方を囲むときには必ず一角を開けて、逃げ道を示しておく。敵の戦いが堅くならないから、城を落とすことができ、軍を破ることができる。
 兵法にいう、「囲む軍は必ず欠けさせる」(孫子・軍争編)

 


by ISHIHARA Mitsumasa 石原光将