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百戦奇略
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21 驕戦

 敵が強大で勝つことができないときは、言葉でへりくだり、礼を尽くして、敵の心を傲慢にさせ、その心の隙に乗ずることができる状況をうかがい、一気に破るとよい。

 兵法にいう、「へりくだって敵を驕らせる」[孫子・始計編]

22 交戦

 敵と戦うには、その隣国と友好にし、言葉でへりくだり、賄賂を尽くして、自国に結びつけ、援軍とすべきである。もし自軍が敵軍の正面を攻め、友好国がその背後を牽制すれば、敵は必ず敗れるであろう。

 兵法にいう、「衢地(各国が関係する地)では、交わりを合わせよ」[孫子・九地編]

23 形戦

 敵と戦うのに、もし敵が多いときには、見せかけを作って牽制し、敵の勢力を分断させれば、敵軍は兵を分けて備えなければならなくなる。敵の勢力が分かれてしまえば、その兵は少なくなる。自軍が集中すれば、その兵はもちろん多い。多い兵で少ない兵を撃てば、勝たないはずがない。

 兵法にいう、「敵には明らかな形を取らせ、自軍は形をわからなくさせる」[孫子・虚実編]

24 勢戦

 戦いにおいて、いわゆる勢いは、勢いに乗ずるということである。敵に破滅の勢いがあるときに乗じて迫れば、その軍は必ずつぶれるだろう。

 兵法にいう、「勢いによって破る」[三略・上略]

 

25 昼戦

 敵と白昼戦をするときには、多く旗印を作って偽の兵がいるように見せかけるべきだ。敵が自軍の兵数を測ることができなくすれば、勝つ。

 兵法にいう、「昼の戦いには旗印を多くする」[孫子・軍争編]

 

26 夜戦

 敵と夜戦をするときには、火や太鼓を多く用いる。敵の耳や目を攪乱し、自軍の計画に備えるにもわからなくすれば、勝つ。

 兵法にいう、「夜の戦いには火や太鼓を多くする」[孫子・軍争編]

 

27 備戦

 出兵して征討するとき、行軍のときには敵の襲撃に備え、停止するときには敵の突撃を防ぎ、宿営するときには偸盗を防ぎ、風が吹いたときには火攻めを恐れる。このように備えを設けていれば、勝ちがあっても負けはない。

 兵法にいう、「備えあれば敗れず」[春秋左氏伝・宣公十二年]

28 糧戦

 敵と陣を構えて相対峙し、両軍とも勝負をまだ決していない場合、食糧のあるほうが勝つ。自軍の糧道などは必ず厳しく守護するべきだ。おそらくは敵軍に狙われるところとなるだろう。敵の補給線などは、精鋭を分遣して絶つとよい。敵の糧食がなくなれば、その兵は必ず退却するから、これを撃てば勝つ。

 兵法にいう、「軍に糧食なければ亡ぶ](孫子・軍争編)

29 導戦

 敵と戦うときには、山川の険しさやなだらかさ、道路の曲がり具合は、必ず地元の人を用いて引導させ、その地の利を知れば、戦って勝つ。

 兵法にいう、「土地の導きを用いないなら、地の利は得ることができない」[孫子・九地編]

 

30 知戦

 兵を起こして敵を伐つときには、戦う土地をあらかじめ知っておくべきだ。軍が到着したときに、敵に好機だと思わせて来させて戦えば、勝つ。戦う地を知り、戦う日を知れば、備えることも万全、守ることも固い。

 兵法にいう、「戦の地を知り、戦の日を知れば、千里先でも会戦できる」[孫子・虚実編]

 

31 斥戦

 行軍の方法としては、斥候を先とする。平坦なら騎兵を用い、険阻ならば歩兵を用いる。五人ごとに小隊とし、各人が白旗を持ち、遠く離れているときには軍の前後左右にあり、接近したら偵察を続ける。賊兵を発見すれば次々に伝令し、主将にお告げして、多数の兵でこれに備えさせる。

 兵法にいう、「備えておいて、不備な敵を待てば勝つ」[孫子・謀攻編]

32 沢戦

 出軍・行軍するとき、沼沢地・水に弱い地に遭ったら、倍速で進んで早く通り過ぎ、とどまってはいけない。もしやむを得ずその地を出ることができず、道も遠く日が暮れて、軍をその中で宿営させるには、かならず地形が環亀(亀のように盛り上がった土地)に行き、すべて中央が高く四方が低い円形の宿営を作って、四方の敵に備える。一つには水害を防ぎ、一つには周囲からの奇襲に備えるためである。

 兵法にいう、「沢地・決壊しやすい地では、環亀を固めよ」(司馬法・用衆)

33 争戦

 敵と戦うとき、もし形勢便利なところがあったなら争って先にここを取ると、戦って勝つ。もし敵が先に至ったら、自軍は攻めてはならない。その変化があるのを待って撃てば勝利がある。

 兵法にいう、「争地は攻めてはならない」(孫子・九地編)

34 地戦

 敵と戦うとき、三軍が地の利を得ることができれば、少数の兵で大軍と戦い、弱兵で強兵に勝つことができる。敵を知れば撃つことができ、己を知れば撃つことができるが、地の利を知らなければ勝利は半分しか得られない。これは、敵を知り、己を知っていても、地の利の助けを得なければ完勝とはいえないということである。

 兵法にいう、「天の時も地の利には及ばない」[尉繚子・戦威]

35 山戦

 敵と戦うとき、山林でも平陸でも、高い丘にいて形勢を整えるべきだ。弓・槍に使いやすく、突撃にも便利で、戦えば勝てる。

 兵法にいう、「山上の戦いでは高いほうを見上げるようにしてはならない」(便宜十六策・治軍)

36 谷戦

 行軍して山地を超えて陣を張るときには、必ず谷にすべきだ。一つには水草が利用でき、一つには堅固なので、戦って勝てる。

 兵法にいう、「山をわたって、谷に宿営する」[孫子・行軍編]

37 攻戦

 戦いで、攻撃者は敵を知る者だ。敵に破ることのできる理由があることがわかれば、兵を出して攻め、勝たないわけがない。

 兵法にいう、「勝てるときは、攻める」[孫子・軍形編]

38 守戦

 戦いで、守備者は己を知る者だ。己にまだ勝つことができない理由があることがわかれば、自軍はしばらく固く守り、敵に勝てる理由が出てくるのを待って、それから兵を出して攻めれば、勝たないわけがない。

 兵法にいう、「勝てないことがわかれば、守る」(孫子・軍形編)

39 先戦

 敵と戦うとき、もし敵が初めて来て、陣形がまだ定まらず、隊形もまだ整っていなければ、先に兵で急襲すれば勝つ。

 兵法にいう、「人に先んずれば、人の心を奪うことがある」[春秋左氏伝・昭公二十一年]

40 後戦

 戦いで、もし敵の行軍・陣形が整っていて、しかも鋭い場合、まだ戦ってはならない。壁を堅くして待ち、その陣が久しくなって気力が衰えたときに起って撃てば、勝たないことはない。」

 兵法にいう、「敵に後れたなら、その衰えるのを待つ」(春秋左氏伝・昭公二十一年)


by ISHIHARA Mitsumasa 石原光将