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化学兵器概観

催涙ガス
――暴動鎮圧剤の概観


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催涙ガス

情報源:化学兵器に関するFOA要旨説明本

催涙ガスは、低濃度で、目の痛み、涙の流れ、目を開いておく困難を生み出す物質の普通名詞である。催涙ガスは、軍事演習や暴動鎮圧などで主に使われるが、戦争の方法としても用いられた。刺激ガスが古代から戦争で使われたが、効果的な物質の組織的な捜索が始められたのは第二次世界大戦後になってからであった。

この一連の物質のなかでは、3つが他のものより重要である。それは効果的であって、使われるときには危険性が低い。その物質とはクロロアセトフェノン(コードネームCN)、orto-chlorobenzylidene-malononitrile(コードネームCS)、dibenz (b,f)-1,4-oxazepine(コードネームCR)である。CNは以前は最も広く使われた催涙ガスであった。今日、CSはほとんどCNに取って代わり、国際的に恐らく最も広く使われている催涙ガスである。

室温で、これらの催涙ガスは白い固体の物質である。熱せられたときには安定していて、低い蒸気圧を有している。そのため、一般にエアゾールとして散らされる。すべて水溶性は低いが、いくつかの有機溶剤で溶かすことができる。水溶液中のCNの加水分解は非常に遅く、アルカリが加えられた場合も同様である。CSは水溶液で急速に加水分解され(pH7における半減期が室温でおよそ15分)、アルカリが加えられるときは非常に急速になる(pH9における半減期は約1分)。CRは水溶液でごくわずかな程度だけ加水分解される。

CNとCRはこのため、実用的な条件の下で分解されにくいのに対して、 CSは容易に水溶液で非活性化できる。皮膚が石けんと水で適切に徹底的に洗浄されれば汚染が除去される。CNとCRはただ取り除かれるだけだが、CSは無毒化される。

CSとともに汚染されたあとの物質の無毒化は、5-10%のソーダ溶液あるいは2%アルカリ性溶液で行なうことができる。もしこのタイプの無毒化が達成できない場合(例えば、汚染された部屋と家具)、唯一の他の手段は、集中的な空気交換による――なるべく熱い空気で。

人間と対照的に、動物は一般に催涙ガスに感受性が低い。そのため、催涙ガスが使われたときでも、犬と馬は暴動鎮圧のために警察が使うことができる。


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症状

すべての催涙ガスは共通して、目にほとんど緊急の痛みを起こし、涙を流し、まぶたの筋肉を痙攣させる。強く刺激させる効果は、暴露された人の顕著な虚脱化を起こす。目に対する効果を別として、たいていの催涙ガスは、鼻と口、のどと気道で、ときには皮膚でも、特に湿っぽく暖かい部位で刺激を起こす。大規模な曝露状態で、吸入された催涙ガスは嘔吐も引き起こすかもしれない。

催涙ガスへの曝露によって起こされた不愉快な感覚は、犠牲者が理性的に振る舞うことができないほど強く、まさにそのために催涙ガスが虚脱状態を起こすのである。刺激効果は、催涙ガスが十分な濃度がある限り残るが、曝露が終わった後かなり速く(15〜30分で)消える。

催涙ガスの刺激特性は、粘膜と皮膚の神経が影響を与えられることによっている。催涙ガスへの感受性は、人によってかなり違う。個々の反応に影響を与える要因は、感情的な状態、意欲、物理的活動、周囲の温度や湿度などがありえる。

「識閾濃度」(TC)と「活動不能化または耐え難い濃度」(IC)が、催涙ガスの効果を表現するのにしばしば使われる。TC50は、1分間ガスにさらされた人の50%に対する知覚可能な効果以上の何もないように要求された濃度のことである。ICt50は1分間ガスにさらされた人々の50%が耐え難いと感じる濃度である。最も重要な催涙ガスのためのTC50とICt50の値は表参照。

催涙ガスの急性毒性は非常に低い。すなわち、損傷を起こすかもしれない耐え難い効果と、それを起こす濃度の間の幅は大きい。損傷が重大あるいは致命的となりうるのは、非常に高い濃度となったときのみである。実際は、これは閉鎖空間での曝露を必要とする。毒物学調査は、実験用動物あるいは人における遺伝子物質あるいは胎児発達に対する催涙ガスの効果を証明することができなかった。また、ガンの危険が増えるということも観察されなかった。

スウェーデンでの催涙ガスの主な用途は国防軍である。試験室内での高濃度のCS(200mg/m3)は、保護マスクが正しく調整されているかテストするのに使われる。マスク漏れがあるなら起こるかもしれない曝露は、非常に短く、毒物学的にも重要ではないものである。


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3つの最も普通の催涙ガスの化学構造式

コードネーム 化学名

CN

クロロアセトフェノン
CS Orto-chlorobenzylidene-malononitrile
CR Dibenz(b,f)-1,4-oxazepin


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催涙ガスの識閾濃度(TC50)と活動不能化濃度(lC50)(mg/m3)

コードネーム TC50(目) TC50(空中) IC50

CN

0.3 0.4 20〜50
CS 0.004 0.023 3.6
CR 0.004 0.002 0.7


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