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化学兵器概観

シアン化水素


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シアン化水素

情報源:化学兵器に関するFOA要旨説明本

シアン化水素は、通常、一般的な中毒を起こすCW剤に含まれる。化学戦にこの物質が使われたという確認情報はない。しかし、シアン化水素が1980年代にイラクが対イラン戦争で、またイラク北部のクルド人に対して使われたことが報告されている。シアン化水素は高い毒性を持っていおり、十分な濃度で急速に死に導く。第二次世界大戦中、シアン化水素の一形式(Zyklon B)がナチのガス処刑室で使われたといわれている。

室温でシアン化水素は無色の液体であり、26℃で沸騰する。中毒の最も重要なルートは吸入を通してである。シアン化物(青酸塩)溶液同様、気体でも液体でもシアン化水素は皮膚を通して吸入されうる。不安定性が高いので、屋外でシアン化水素の十分な高濃度を得るのに問題があり、戦争で使うのが難しい。一方で、制限された空間で解放されるならば、シアン化水素の濃度は急速に致命的なレベルに達するかもしれない。

シアン化水素の最も重要な有毒効果は、金属を含む酵素を抑制することによるものである。そのような酵素の一つが、鉄を含むシトクロムオキシダーゼ(cytochromoxidase)である。この酵素系は、酸素が利用される場合、つまり細胞呼吸のなされる細胞でエネルギーを供給するプロセスに絡んでくる。細胞呼吸が終わるとき、標準的な細胞機能を持続することはもう可能ではないし、細胞の死亡に導くかもしれない。

シアン化物中毒の症状は、たとえば中毒ルート、総量、曝露時間によって変わってくる。シアン化水素が吸入されたならば、最初の症状は不安と呼吸量増大である。他の初期症状としては、めまい、頭痛、動悸、呼吸困難である。このあと、嘔吐、けいれん、呼吸不全、意識不明が続く。たとえば空中の超高濃度の結果として中毒が急速に起こるなら、症状が発展する間がなく、暴露された人は突然倒れて死ぬかもしれない。

現在、スウェーデン軍中にはシアン化物中毒に対する解毒剤がない。文民に与えられた治療は、シアン化物を排出し、血液中のシアン化物と化合することを制約する身体自身の能力を高め、スピードを上げることである。体内では主に肝臓に存在している酵素 rhodanese は、硫黄とシアン化物をチオシアン酸塩に変換し、尿に排出する。硫黄を供給することで、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)のかたちで解毒が速められる。シアン化物イオンは3価鉄(Fe3+)に高い親和性を持っている。血中ヘモグロビンの2価鉄は3価に酸化させることができ、シアン化物イオンを拘束する無水ヘモグロビンの形成に導く。無水ヘモグロビンの形成は亜硝酸ナトリウム(NaNO2)やジメチルアミノフェノール(DMAP)を供給することによって可能となる。

シアン化物は、適当な方法で血液に供給された金属イオンによっても制約できる。とりわけ、コバルトはコバルト複合体あるいは水酸コバラミン(ビタミンB12)の形で供給できる。

中毒の場合、シアン化水素で対策をすぐにとるのが最も重要である。このため、予備治療として使える医学対策(PAPP、 パラアミノプロピオフェノン)が英国で開発されている。


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シアン化水素を吸い込んだときの濃度と効果の関係

濃度(mg/m3 効果

300

即死
200 10分後死亡
150 30分後死亡
120〜150 30〜60分後に極めて危険(致命的)
50〜60
20分は持続――1時間後には効果なし
20〜40 数時間後に軽い症状

 


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