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化学兵器概観

神経ガス
――コリンエステラーゼを抑制する致命的な有機リン剤

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神経ガス

情報源:化学兵器に関するFOA要旨説明本

致死的なCW剤の中でも、神経ガスは第二次世界大戦から完全に優勢な役割を有していた。神経ガスとは、神経系における神経刺激伝達に影響を与えるためにこのように呼ばれる。神経ガスはすべて、化学的に有機リン化合物のグループに属する。安定しており、容易に分散し、極めて有毒で、皮膚と呼吸の双方を通して浸透するときには急速な効果を持っている。神経ガスは、かなり単純な化学技術法によって生産できる。未加工の材料は高価でなく、一般に容易に利用可能である。

有機リン化合物が有毒かもしれないとドイツの化学者が最初に述べたのは1930年代初期になってからのことであった。1934年、イーゲーファルベン(IG-Farben、ドイツの化学工業トラスト)の化学者ゲルハルト・シュラーダー(Gerhard Schrader)博士は、殺虫剤を開発する任務を与えられた。2年後、非常に高い毒性を持つリン化合物が初めて作り出された。当時の規則によれば、軍事的に意味を持っている発見は、軍事当局に報告されなければならず、シュラーダーの発見もそのようにされた。タブンと名付けられたこのリン化合物は、後に神経ガスとされる物質の最初のものであった。

新しいCW剤生産のための工場が建てられ、合計12000トンのタブンが1942〜1945年の間に作り出された。戦争の終わりに、連合国は大量のこの神経ガスを差し押さえた。戦争の終わりまでに、シュラーダーとその同僚は、サリン(1938)を含むおよそ2000の新有機リン化合物を合成した。「古典的な」神経ガスの第3であるソマンは、1944年に最初に製造された。これら3つの神経ガスは、アメリカの命名法ではG剤として知られている。サリン製造は本式には始まっておらず、1945年までに、この神経ガスはおよそ0.5トンが試験工場で作り出されただけだった。

戦後すぐの研究は、これらの新しいCW剤に対するもっと効果的な保護法を発見するために、神経剤のメカニズムの研究に集中した。これらの努力の結果は、保護のよりよい形式だけではなく、初期型と密接な関係がある新型剤に向かった。

1950年半ばまでに、アメリカの命名法ではV剤として知られるいっそう安定した神経ガス・グループが開発されていた。それらはサリンより約10倍有毒であり、今までに合成された最も有毒な物質である。

これらの物質の最初の発表は1955年に現われた。著者R・ゴーシュ(R. Ghosh)とJ・F・ニューマン(J.F. Newman)は、ダニに対して説くに効果的である物質としてAmitonについて記述した。このとき、ヨーロッパでもアメリカでも、有機リン剤に対する集中的な研究が行なわれていた。少なくとも3つの化学薬品会社が独立して1952〜53年の間にこれらのリン化合物の注目に値する毒性を発見したように思われる。驚くべきことに、これらの物質の若干は殺虫剤として市場に出回っていた。だが、それらは哺乳動物に対しても極めて毒性を持つために、すぐに撤去された。

合衆国で、持続型CW剤、コードネームVXとして知られる物質は1958年に選択された。VXの全面的生産は1961年4月に始まったが、その構造は1972年まで発表されなかった。


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物理的・化学的特性

最新CW兵器に含まれる最も重要な神経ガスは以下のとおり。

  • タブン(Tabun)、O-ethyl dimethylamidophosphorylcyanide、アメリカ名GA。この神経ガスは生産が最も容易である。そのため、先進国がタブンは時代遅れで限定使用用であると考えるのに対して、途上国はこの神経ガスからCW兵器所有を開始するということがありえる。
  • サリン(Sarin)、 isopropyl methylphosphonofluoridate、アメリカ名GB。主に吸入によって吸い込まれる揮発性物質。
  • ソマン、pinacolyl methylphosphonofluoridate、アメリカ名GD、吸入あるいは皮膚接触によって吸い込まれる穏健な揮発性物質。
  • Cyclohexyl methylphosphonofluoridate、アメリカ名GF。ガスまたはエアゾールとして皮膚接触と吸入を通して吸い込まれる低揮発性物質。
  • O-ethyl S-diisopropylaminomethyl methylphosphonothiolate、というよりアメリカ名VXで知られている。長期間に渡って物質、装備、場所に残留する持続的物質。吸入は主に皮膚を通してであるが、ガスまたはエアゾールとして吸入することもある。

神経ガスの構造式は以下のとおり。

  • タブン、GA: (CH3)2N-P(=O)(-CN)(-OC2H5)
  • サリン、GB: CH3-P(=O)(-F)(-OCH(CH33)2)
  • ソマン、GD: CH3-P(=O)(-F)(-CH(CH3)C(CH3)3
  • GF: CH3-P(=O)(-F)(cyklo-C6H11)
  • VX: CH3-P(=O)(-SCH2CH2N[CH(CH3)2]2)(-OC2H5)

同じタイプのリン化合物は、たとえば殺虫剤に使われている。殺虫剤構造ではP(=O)は一般的にP(=S)によって置き換えられ、(-F)、(-CN)、(-SCH2CH2N[CH(CH3)2]2)よりも低反応的なグループが代わりに使われる。

純粋な状態では、神経ガスはすべて無色の液体である。それらの揮発性はさまざまだ。VXの揮発性は不揮発性オイルに似ており、そのため持続的なCW剤のグループに属していると分類される。その効果は主に皮膚への直接接触を通してのものである。対称的にサリンは、揮発性の高い液体(例えば、水に相当)であって、呼吸器官を通して主に吸収される。ソマン、タブンとGFの揮発性はサリンとVXの間にある。

つなぎを加えることによって、例えばソマンを、揮発性CW剤の領域から持続剤に変えることが可能である。

他の神経ガスが溶解性に劣るのに対して、サリンは極めて水溶性である。VXは冷水に溶けるが、暖かい水には溶けない(9.5℃以上)という可溶性に関する意外な特性を持っている。

神経ガスの最も重要な化学反応は、リン原子で直接起きる。P-X結合は、水あるいは水酸基イオン(アルカリ)のような求核性試薬によって容易に壊される。中性のpHにおいて、水溶液で神経ガスはゆっくりと分解するのに対し、アルカリの付加に続く反応はかなり速い。その結果、無毒なリン酸が生じる。

25℃におけるサリンとVXのためのpHに基づいた加水分解率は、半減期(時間)で表わされる。曲線はpHが一定に保たれた研究所の実験で計算された。湿った地面や雪の上では、加水分解は自触媒作用の結果として図で示されたよりも早く進むかもしれない。酸性加水分解の生成物は次第にpHを低くし、そのために分解が早まることになる。

無毒なリン酸形成は、温度上昇や触媒によっても速められる(例えば、さらし粉の次亜塩素酸イオン)。この次亜塩素酸は、分解を利用した無毒化手順の基礎となる。一般に、G剤にさらされた地域は数日以内に勝手に無毒化すると想定される。しかし、V剤は、水に対する安定性と揮発性の低さのために、数週間地上に残っているかもしれない。7〜10の間のpHレベルにおいて、大量のVXは、皮膚浸透の不可能な非揮発性加水分解生成物に変わる。これは明らかにVXより有毒性が低いが、無毒化の間にはまだ危険があるといえる。

三価リン原子(P)に対する求核攻撃は、神経ガスを検出するのに使われる異なったタイプの変色反応の基礎となる。


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バイナリー技術

たいていの化学弾薬はユニタリー(単液型)といえる。それは、1つの活発なそのまま使えるCW剤を含んでいることを意味する。バイナリー(二液型)技術は、神経ガス生成の最終段階が、工場から弾頭内に映されるということであり、こうして弾頭は化学反応器として機能する。別の容器にしまっておかれた2つの初期物質が混ぜられて反応し、弾薬(爆弾、砲弾、手りゅう弾など)が標的に向かっているときに神経ガスになるのである。

実際に使われる瞬間まで、弾薬は比較的有毒でない初期物質だけを含んでいる。そのため、生産、貯蔵、輸送、最終的に破壊するのに安全であると考えられる。しかし、ほとんど試されていないタイプのこの新しい弾薬は、信頼性が高いかどうか疑う評論家もいる。爆弾やロケットで物質を混ぜる技術は複雑であり、場所を必要とする。反応はコントロールされなければならず(例えば温度)、反応過程はなるべく溶剤なしで起きたほうがよい。

バイナリー兵器使用の基本。2つの液体成分を有する2つの弾体が、砲弾内に前後して置かれる。砲弾が発射されるとき、慣性作用で前の弾体が後ろ向きに液体の中身が圧縮され、弾体を分離させている壁を破裂させる。銃身の中の旋条のために、砲弾で混ぜるのに役立つ約15000 r.p.m.の回転速度が与えられる。

1991年、イラクは国際連合特別委員会(UNSCOM)に独特のバイナリー武器概念を申告した。これによれば、1つの成分を含む武器が貯蔵され、使用の少し前に武器が開かれて、第二の成分が加えられる。そのため、反応は武器が発射される前にでも始まる。

3つの最も普通の神経ガスのためのバイナリー成分は以下のとおり(かっこ内はアメリカのコードネーム)

  • サリン(GB-2): methylphosphoryldifluoride (DF) + isopropanol。イソプロパノールは生成された水素フッ化物をつなぐ isopropylamine との混合物(OPA)に含まれている。
  • Soman (GD-2): methylphosphoryldifluorid (DF) + pinacolylalcohol。
  • VX-2: O-ethyl O-2-diisopropylaminoethyl methylphosphonite (QL) + 硫黄。


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作用のメカニズム

神経ガスの特徴は、非常に有毒であり、非常に速い効果を持っているということである。神経ガスは気体でもエアゾールでも液体でも、吸入や皮膚を通して身体に入る。中毒は、神経ガスで汚染された液体や食べものの消費を通しても起こりえる。

身体に入るルートは、神経ガスが効果を持ち始めるために必要とされる期間のために重要である。それはまた、進展する症状と、ある程度は別の一連の症状に影響を与える。一般に、中毒は剤が呼吸器系を通して浸透したときに、他のルートよりも速く作用する。これは、肺が多数の血管を含んでいるため、吸い込まれた神経ガスが血液循環の中に急速に放散し、標的器官に達することができるからである。これらの器官の間で、呼吸器系は最も重要なものの1つである。もし人が神経剤、例えば200mgサリン/m3(表参照)の高濃度にさらされるなら、2、3分で死 が起こるかもしれない。

中毒は、神経ガスが皮膚を通して身体に入るときにはもっと長くかかる。神経ガスは多かれ少なかれ脂溶性であって、皮膚の外層に浸透できる。しかし、それは毒がもっと深い血管に届く前に、しばらく時間がかかる。そのため、最初の症状は、最初に曝露されてから20〜30分後まで起こらないが、神経ガスの送料が多ければ、その後急速に中毒過程が進むかもしれない。神経ガスの有毒な効果は、酵素アセチルコリンエステラーゼと結びつき、そのためにコリン作用性神経系でこの極めて重要な酵素の標準的な生物活動を抑制することによるものである。


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症状

少量の神経剤に曝露されたときは小規模な中毒が起こるが、特有の症状は、だ液の生産量が増えること、鼻水が流れること、胸に対する圧迫感である。夜間視力を害する目の瞳孔の収縮(縮瞳)。目の調節能力が減退し、短距離の視力が悪化して犠牲者が近くの物体に焦点を合わせようとするときに痛みを感じる。これは頭痛を伴う。もっと多くのはっきりしない症状として疲労、不明瞭な話、幻覚、吐き気がある。

高濃度の曝露は、さらに劇的な展開に導き、症状はいっそう顕著となる。呼吸器系における気管支収縮と粘液分泌作用は、呼吸とせきを難しくする。消化管での不快は、筋肉けいれんと嘔吐に発展するかもしれない。無意識の尿失禁と排便も情勢の一部を形成するかもしれない。だ液の噴出は強力である。骨格筋の症状は非常に典型的である。もし中毒が穏健であるなら、これは筋肉の弱まり、局所的な震動あるいはけいれんとして表われるかもしれない。

高濃度の神経剤に曝露したとき、筋肉症状はいっそう顕著である。犠牲者はけいれんを経験し、意識を失うかもしれない。ある程度、中毒過程が迅速であるために、すでに述べた症状が進展する時間さえないかもしれない。

神経ガスによって起こされた筋肉麻痺も呼吸器筋に影響を与える。神経ガスは中枢神経系の呼吸器センターにも影響を与える。これらの2つの効果の組合わせは直接の死因となる。そのため、神経ガスによって起こされた死は、窒息死の一種である。

図はサリン蒸気の異なった量によって起こされる中毒結果の例を示している。他の毒と同様に、個人差によって多かれ少なかれ神経ガスに敏感となりえる。この図は、最も神経過敏な人にとっての致死量が約70mg.min/m3であり、抵抗力の強い人のおよそ二倍レベルであることを示している。

有毒効果は、吸い込まれた空中神経剤の濃度(C)と曝露時間(t)の両方による。非常に高い濃度では単純な関係C×tがあり、これはある有毒な効果を与える。1分間の100mg/m3の濃度のサリン蒸気の1分間の吸入は、50mg/m3の2分間の吸入と同じ結果を与える。しかし、低濃度においては、人間の身体にはある程度の解毒能力があるので、この関係は成り立たない。対応する効果を得るために、比較的長期的な曝露時間が必要である。神経ガスの毒性として表で示された値は、高濃度の場合である。


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解毒剤と治療方法

神経ガスは非常に速い効果を持っている。治療の医学的方法が目的を満たすためには、すぐに導入されなければならない。多くの国で、軍は神経ガス解毒剤を含む自動注射器を有している。それは、軍人が容易に自分や他人に筋肉内注射をできるように簡単に使えるものである。

スウェーデンの自動注射器。

一例として、HI-6(500mg)とアトロピン(2mg)という2つの有効成分を含んでいるスウェーデンの自動注射器がある。HI-6は、損傷の原因すなわち、神経ガスによって抑制されたアセチルコリンエステラーゼに直接反応するオキシムである。HI-6は、酵素を活動可能な状態に回復させる再活性剤の役割を果たす。オキシムは、脳内への浸透能力は低いため、末梢神経系で主に働く。

種々の神経ガスは多かれ少なかれオキシムで扱うことが容易な中毒を起こす。この見地から、 VX とサリンは治療するのに最も容易なものであり、オキシムが使われたならば、これらの神経ガス中毒の生存確立を高める。オビドキシムはタブン中毒に対して最も効果的であるが、HI-6も有効な効果を持っている。ソマンは最も治療の難しい中毒を起こし、HI-6でのみ治療できる。

ソマン中毒は、抑制された酵素によって「老化」過程を進め、複雑になる。老化につれて、酵素はオキシムによって復活できなくなる。HI-6がその再活性化能力以外に、それ以上の積極的な解毒剤効果を持っている可能性はある。

自動注射器を使っている写真

もう一つの自動注射器の有効成分はアトロピンである。アトロピンは有機リン化合物による中毒の場合に古典的な解毒剤である。それは症状を軽減する薬物療法であるが、損傷の原因を攻撃しない。アトロピンは、コリン作用性シナプスに存在しているアセチルコリンの受容体に結び付く。アセチルコリンが結び付くときに信号が伝達されるが、アトロピンが受容体に結びついたなら、このような伝達はまるで起きない。こうしてアトロピンは、アセチルコリンエステラーゼ抑制の結果として生じるアセチルコリン過剰に対する保護を行なう。アトロピンは、コリン作用性神経系のある特定の部分の中だけで効果を持っている。

アセチルコリン受容器には二つのタイプがある。たとえば骨格筋にみられるニコチン酸と、たとえば平滑筋、腺、中枢神経系で見いだされるムスカリンである。アトロピンはムスカリン受容器をふさぐ。そのため、アトロピンとオキシムはお互いを補完し、2つの解毒剤は同じく共同作用効果、すなわちお互いに押し上げる効果を持っていると考えてよい。

もし状態が10分以内によくならないなら、神経ガスの犠牲者に追加の自動注射を与えてよい。その後、犠牲者は資格を有した医師によって扱われるべきである。そのとき、最初に追加のアトロピンと対痙攣薬であるジアゼパムを注射すべきである。神経ガスによるひどい中毒の場合、大量のアトロピン(グラム単位)が必要とされるかもしれない。活動可能なアセチルコリンエステラーゼのレベルは、次第に肉体自身の生産によって復元されるが、この過程は少なくとも2週間を必要とする。この期間と、おそらくはその後も、犠牲者は睡眠障害、記憶喪失、集中欠如、不安のような精神障害と、筋肉の弱まりに対する医療を必要とするかもしれない。精神的問題は、神経ガスの超低濃度に長く曝露された後にも起こるかもしれない。

予防的にとることのできる解毒剤薬もある。これらの解毒剤は錠剤としてとられ、最大のC準備に関連して注文されるときに使われる。一錠の錠剤は有効成分としてカルバミン酸、ピリドスチグミンを含んでいる。ピリドスチグミンはアセチルコリンエステラーゼを抑制し、神経ガスの抑制効果から酵素を守る。必要量は低くて、約25%抑制に導く。ピリドスチグミンで抑制された酵素は、活発な状態に連続的に解放され、それによって、神経ガスによって起こされた損傷にもかかわらず、相応に効率的に神経衝動の転送を持続することができる。効果は、物質が脳に入らないため、コリン作用性末梢神経系に制限される。

コリン作用性シナプスには酵素が大いに過剰なので、ピリドスチグミンは副作用を起こさない。実際、機能的な酵素の1〜2%でシナプス作用に十分である。これは、カルバミン酸予備治療がこのようなよい効果を持っている理由ともなっている。

カルバミン酸を含む予備治療が最大の効果を発揮するためには、中毒後、オキシム療法(自動注射)と組み合わせるべきである。この組み合わせは、すべての神経ガスの有毒効果を減らす。

主に中枢神経系に影響を与えるジアゼパム錠剤も、一般に予備治療として与えられる。ジアゼパムは、他の神経ガス解毒剤の効果を強くする。生き残りと、損傷軽減によい見込みがあるだろう。ジアゼパムは神経ガスへの重い曝露の結果として生じるかもしれない永久の脳障害に対しても保護を与える。

警告システムが有効で作動しているなら、予備治療が有効である。錠剤を飲んでから30分が必要だからである。最善の保護効果は、およそ2時間後に現われ、その後は有効性が減少する。もし状況的に必要であれば、治療は数日間8時間おきに繰り返してもよい。錠剤は、神経ガス損傷が起こったときに飲むべきではない。明らかに、ジアゼパムは有効な効果を持っているが、その段階においてはピリドスチグミンが損傷を悪化させるであろう。


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人間への最も重要な神経ガスの毒性

  LCt50 LD50
  mg.min/m3 mg/人
タブン 200 4000
サリン 100 1700
ソマン 100 300
VX 50 10

値は人間に対する致死的効果を持つ量の見積もりである。LD50は、曝露した住民の50%が損傷結果として死ぬ量を表す。吸入、濃度(C)、曝露時間(t)のために、異なった基準が使われている。Lは致死を示し、50は50%効果を示している。毒性の連続は2つの曝露径路で同じであるが、皮膚曝露のほうがずっと大きい。これは主にむきだしの皮膚から蒸発する揮発性の高い神経剤に当てはまる。たとえばしっかりした衣服のように蒸発が妨げられるなら、その差は少しだろう。


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神経ガスの物理特性

特性 タブン サリン ソマン GF VX
分子量 162.1 140.1 182.2 180.2 267.4

密度 g/cm3*

1.073 1.089 1.022 1.120 1.008
沸点℃ 247 147 167 92** 300
融点℃ -50 -56 -42 <-30 -39
蒸発圧力 mm Hg* 0.07 2.9 0.3 0.06 0.0007
揮発性 mg/m3* 600 17000 3900 600 10
水溶性 %* 10 2 〜2 3 (∞<9.5℃)

* = 25℃ ** = 10 mm Hg


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コリン作用性シナプスと、アセチルコリンが形成される神経、受容体を持つ受容側(筋肉、腺など)の単純化した図。

アセチルコリンが形成されると神経細胞から離れる。他のシナプスの側面上で、これは一瞬の間、筋肉細胞受容体と結び付く。たとえば腕を曲げろとか息をしろという信号は、今、神経系から動く筋肉まで伝えられた。神経剤が存在すると、アセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼが抑制される。受容器は信号を筋肉細胞に送り続け、そのために筋肉は痙攣する。


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酵素アセチルコリンエステラーゼに対する神経ガスと解毒剤の効果

神経ガスの有毒効果は、コリン作用性神経系で酵素アセチルコリンエステラーゼを抑制することによる。この酵素は、信号物質アセチルコリンを壊す役目を果たし、二つの過程を必要とする――活発な場所でのセリンによるアセチル化と、加水分解。

酵素-OH + CH3C(=O)-O-(CH2)2-N + (CH3)3
はコリンの放出と反応して、
酵素-O-C(=O)-CH3
となり、これは急速に加水分解して
酵素-OH + CH3COOH
となる。

コリン作用性シナプスにおける信号物質の崩壊は、酵素が大量に作用することから、また酵素が非常に効率的であるため、非常に急速に置きる。最適な状態の下では、それぞれの酵素分子は毎秒約15000のアセチルコリン分子を加水分解する。神経ガスの反応メカニズムは似ているが、最終の加水分解段階の率がごくわずかであるという重要な違いがある。そのため、活発な場所のセリン経由で神経ガスが酵素と共有結合するため、 酵素は変更できないほどに抑制される。

酵素-OH---X-P(=O)(R1)(-OR2)
は、X-と反応してこうなる。
酵素-O-P(=O)(R1)(-OR2)

アセチルコリンエステラーゼの抑制は進行性過程であり、抑制の段階は神経剤の濃度だけではなく曝露時間にもよる。ソマンは神経ガスの中でもアセチルコリンエステラーゼに最も効果がある抑制剤である。10〜9Mの濃度では10分以内に50%以上の酵素を抑制するのに十分である。


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オキシムを使う再復活

一般構造式R-CH=NOHのオキシムは、燐酸化酵素を復活させることができる。オキシムはP-O結合を攻撃し、それによって使用可能な酵素と、有毒でない生成物に急速に加水分解された燐酸化オキシムが形成される。このような再復活の効率は、3つの成分が含まれるすべてのタイプに強く依存する――酵素、オキシム、神経ガス。

「老化」

「老化」反応で、燐酸化酵素は非アルキル化される。

酵素-O-P(=O)(R1)(-OR2)
は、反応してこうなる。
酵素-O-P(=O)(R1)-OH

反応は酵素自体によって促進され、反応は非常に速いかもしれない。ソマンに抑制されたアセチルコリンエステラーゼは数分以内に「老化」される。「老化」後、抑制された酵素は加水分解に対して抵抗力を持つようになり、オキシムでの再復活も効果がない。

カルバミン酸ピリドスチグミンによる予備治療

一般構造式R1R2-N-C(O)-O-R3であるカルバミン酸は、アセチルコリンエステラーゼを抑制する。それは基体と神経ガス反応に似たメカニズムで酵素をカルバミン酸化する。カルバミン酸化された酵素は、約30分の半減期でゆっくりと加水分解する。


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