戦略戦術詳解

研究会著
東京 兵事雑誌社
明治四十四年八月〜十一月

第七巻 第七十二章 戦術の沿革

この72章のみひらがなで公開することをお許し頂きたい。石原。

総論

 現時においても戦争を根絶しあたわざるが如く、人類が地上に発生して人類の自然性に基づきて共同生活を営むやここに種族となり団体となり国家となり各々自己種族、団体、国家を自衛するの必要を生じあるいは自己種族、団体、国家の発展膨張を主張してついに相互の衝突を来しここに戦争を惹起したることまた今日と異なることなし。

 故に戦争の歴史は人類の歴史の如し。人類あればすなわち戦争は免れず。既に戦争あり。すなわちここに方術を存すること今古共に異なるところなし。ただその方術はその文明の度、国民の性、風尚、対外政策等によりて発達の趣向を一にせずしてここに差異天然の関係を来したり。

 殊に往古は交通連絡発達せざりしをもって一地方に発生し発達したるところの方術はその特性を有すること今日の如く鮮少ならず。これら特性を有する方術にして互いに一点に輸贏を争うに至るや優勝劣敗の結果若干の淘汰を受けてさらに全体を変化せる方術の発生となることなお現今におけるが如し。

 今日においては交通連絡の発達は大に地方的特色を去り共通性を大ならしめたるをもって往古の如く多大なる差異あるを免れしといえどもその国の歴史、人情、風俗、天然の関係はなお若干の特色を有するを免れず。

   

石原光将 ISHIHARA Mitsumasa