情報戦と情報構造
情報戦のほとんどすべての形態において想起される一つの概念――そしてそれゆえに共通の含意を生み出す概念――は、――いううなれば、ある町の構造によって爆撃効果が決定されるよりもはるかに――システム構造の細部によって、それに対する攻撃の効果が決定されるというものである。
孫子によれば、敵をよく理解している陣営のほうが、対立においてよりよく備えを固めることができる。敵の文化と、その社会が情報を扱う方法を理解することはやはり重要だ。最近になって、敵が情報システムを使う方法――特に通信ネットワーク、データベース、そしていずれは系列的知識アルゴリズム(たとえばニューラル・ネットワーク)――を把握することは、同様に重要である。
中心となる物理的レベルでは、構造には、センサーと送信機とその出力、正確さ、有用性、信頼性が含まれる。ネットワークレベルでは、構造はこれらの要素の相互接続を取り巻くものである。それはまさに、中心のプロセッサーに直接送信し、特別なシステム(アルゴリズム的または人為的またはその組み合わせ)または仲介結節点を通して選別される(たとえば、フィールド・プロセッサーが意味情報を抽出してそれに沿って渡したり、あるいは情報を選別するということ)。さらに高度なレベルでは、完全なシステムがある。暗号化、メッセージ優先(たとえば、これまで階層分けで行なっていたことに取って代わる選別システム。重厚な電子戦環境では有効)、アクセス(何であるかを見ることが出来る人)、デジタル署名(センサーの読みがセンサーから来たものであるとか、命令が有効な情報源から来たものであるということを保証するもの)、余剰(バイトレベルと意味レベルにおいて)。
構造は、ビットが情報に変換される方法について示している。ある司令部にいる司令官は、3つのトップ補佐官(下の階級の者から聴いたことに対する直感を働かせる人)以外の人にほとんど注意を払うことがないだろう。別の司令部にいる司令官は、未加工データを試験する分析者集団に対して強く自己主張するかもしれない。それぞれの分析者の相対的影響は、彼らの能力についての司令官の見積もりと、分析と現実の間の相関関係によって変化するのである。また、別の司令官は、自分自身でメッセージ化されたビットの流れをかすかに観察し続けるかもしれない。この司令部にいる分析者は解釈を提示するかもしれないが、それが誤った状況にあり、しかも完全には間違っていないというような場合にのみ認められることになるかもしれない。明らかに、それぞれの司令官は異なった決心スタイルを持っており、指揮統制戦の作戦はそれぞれの指揮機構において非常に異なった効果を示すことになろう。
構造は、情報を決定に結びつける。どのように表示が解釈され、どの表示が別の表示と関係づけられ、何が認識を構成し、誤ったプラスと誤ったマイナスを除去するようにどの境界が設定されており、いかなる状況下でセンサーのビットの流れが高い相対的な優越性を得るか。異質な流れからのデータは、融合されて、決定に影響したり、事実に沿って支援することになるのだろうか? 明日のセンサーから射手に至る結合は、一つの経路でしかない。他の経路は、政治的方向性、交戦規則、その人自身の力の状態などである。
決心の構造を無視して遂行された情報戦は、闇夜の戦闘以下である。湾岸戦争での合衆国軍は、イラク指導部がどのように考えているかを理解するために長期間の準備が必要だった。ソヴィエトの方針と最近のイラク史からの抽出(たとえば、バース党イデオロギー、イランに対する戦争からの教訓など)、傍受メッセージの聴取、ソヴィエト装備の精査、さらにイラクのシステムを試験するための陽動作戦など。1月17日までに、多国籍軍はイラクが情報を扱う方法についてのかなりよい感触を得ていた。
構造上の問題は、明日のハッカーたちからの攻撃にさらされた民間システムにも及ぶ。アクセスとセキュリティの問題の大半は、本質的に、システムが話しかけさせる相手についての問題である。メッセージはどのようであり、メッセージはどのように結びつけられているか――たとえば、(電子商取引に推奨されている)デジタル署名や(知的所有権を守るために提案されている)テルテール・スレッドによって(注66)? 他人がシステム実行コードや解析可能なテキストを提供できるかの問題は、どんなシステムなら拒絶されずに吸収できるかという問題である。消去不能なアーカイブ法は、汚損された可能性のある現在の状態と、過去のおそらくは汚損されていない状態を結びつけるものである。物理的に開かれているからシステムがハッキング可能と言うことは、ほとんど、複雑でしばしば正しく周到な構造を持つシステムの適切な記述を提供することにはならない。
66. この考え方によれば、知的財産の一部(たとえばビデオ)は、その製品を違法に友人にコピーしかねない顧客のために、個々の製品ごとに疑似暗号データによってわずかに変更または味付けされる。友人のコピーが発見されたら、オリジナルの十分なビットで、もともとの(違法行為を働いた)集団が判明する。
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心理戦が効果を持つようにするには、複数の次元のメディア構造と対応している必要がある。第一の問題は、どのようにビットの流れを別の国のメディア網に、直接に(たとえばDBSを使って)、間接に(たとえばCNNを通じて)、あるいは反射的に(特定の事件に対するメディアの反応を通じて)注入するかということだけである。対象となる住人は「未メディア」(たとえば、情報が主に口コミである場合)なのか、マスメディアなのか(たとえば、一つの、多くてもいくつかの出口)、それとも「ポストメディア」(たとえば、Me-TVのように500ものチャンネルがある)なのか? どうすれば多くの人々が情報を扱うようになるだろうか――福音書のように、広告のように、反対者の見解への信頼できる指示(たとえばソビエトのニュースへの一般的な反応)のように? 公式ニュースソースはどのように異例な情報に反応するか――無視、反駁、論駁、抑圧?
この例では、構造は単純な擬宇術的構成要素と、それより複雑な文化的構成要素の双方を有している。
相手陣営の構造に対する情報戦に依存することは、その効果がその構造に対する諜報と同程度になるであろうということだ。指揮統制戦を運営するには、最小限、だれがだれに何についてどんなシステムを使ってどのように通信したかという知識が必要である。同じくらい必要なことは、指揮システムが圧力下または減退状況で作戦実行する方法について知ることである。この情報が(立証どころか)集めにくいというのは控えめな表現だ。冷戦が終わって、地図作製の必要のある国の数は増大し、冷戦の激しかったころよりも資料は少なくなっている(注67)。合衆国がソ連を研究するのに40年以上を費やしたが、現在の新しい敵は毎週生じるかもしれない。合衆国の潜在的敵国のほとんどは、西洋の会社からの情報システム、ソヴィエトに対して利用可能でなかった諜報の情報源を有してきた。もし、相手陣営の指揮システムへの攻撃を指揮・査定するのに必要な知識が、合衆国が持っているか得ることのできるものより十分に少なければ、そのような攻撃のための情報は無駄になるだろう。
67. さらに悪いことに、軍は外国地域職員を削減しており、この流れでの文化的文脈は失われつつあるかもしれない。
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外国の防衛システムが合衆国諜報基盤戦収集システムと連動されるように設計されたとするなら、友好度を下げる、ということは、合衆国も容易に理解出来ることだ。グローバルな情報基盤設備による国際的なコンピューターと通信の同化は、さまざまな要求に反応し、さまざまな答えを生み出す情報システム(たとえば航空予約システム、環境モニターシステム、相互銀行資金移動)を生み出し――そして比較的理解しやすい方法で機能している。この状況から、いくつかの結論に至る。
第一に、相手陣営のシステムについて戦時に知るには、平時にそれを知っておけば十分である。他の国民の平時システムが、彼らと合衆国が相互に礼節を保っている期間に合衆国と相互接続する必要によって影響されていると期待するのは、過分なことであろうか?
第二に、相手陣営の構造を平時に知ることは、合衆国にとって、それを具体化するほどに役に立たない。他国のシステムは、その構造が国際システムの中のサブシステムとなっている度合いによって大いに影響される(ハードウェア、ソフトウェア、内容、システム統合)。
第3に、最も鋭い合衆国国家安全保障戦略は、グローバルな情報基盤設備の開発のための支援という形で表現されるだろう。有利な価格決定方針、アクセス可能なソフトウェアと技術、相互に受け入れられた標準規格は、一つの方法を提供する。共通ネットワークは助けになる。だから、また、データ配布のためのサービスと、諜報データ処理のためのサービスの双方のグローバルな有用性を高めることにもなる。共通インターフェースが利用可能なセンサーその他の宇宙情報システムと、グローバルなアクセスは、地球上での視界が共有されていくことを促進する。公開鍵の基盤と相互連結された周囲監視システムは、情報セキュリティの助けとなるだろう。このように現われつつある情報システムの正確な構造は、すぐに詳細に語られる必要はないが、その最も重要な特徴――合衆国システムの拡張であるグローバルなシステム――は、そのままであり続ける。
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