対意志
ビロード製の手袋(「私たちを友好的に受け入れよ」)か、鉄拳(「さもなくば」)か、という双方を通して国家の意志に対する心理戦争を用いることは、軍事作戦への付加物として長く尊重されてきたもので、トゥキディデスの著作にもすでに見られる。最近のソヴィエトの「平和攻撃」とメーデー・パレードは、彼らもその使用に親しんでいるということを示しており、それは我々も同様である。
ソマリアの部族長モハメド・アイディードは、(もし米国国防総省に主催されたシンポジウムが正しく示しているとすれば)心理戦を使う達人のようである。合衆国レンジャー隊員19人が亡くなった決戦で、アイディード側は、報道によるとその15倍を失ったという――彼の勢力の約三分の一である。モガディシオの通りであざ笑っているソマリア人がアメリカ兵の死体を引きずっている写真がCNNによって合衆国に送信されると、合衆国の家庭にいるTV視聴者はソマリアにいることをイヤだと思うようになった。アメリカ軍は去り、アイディードは、本質的に、情報戦に勝ったのである(注31)。
31. 都市の壁を越えて伝わり、そのために場所を特定しづらい太鼓、衛星ターミナル、ラジオ・トランスミッションをアイディードが巧妙に使用したことは、情報戦の別の側面を彼が理解していたという証拠として引用されてきた。
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グローバルなアナウンサーたちは、そのなかでもCNNがリーダーだが、この惑星のどこで起こった事件でも、それが本物であるか、それとも見せるために加工されたものかは別にして、多くの国々の視聴者にそれを配布することを保証している。CNN放送は、即時衛星が報道機関に提供できるというが、この特徴は別として、国際ニュースの概念はCNNによって発明されたものではない。25年以上前、ベトナム戦争は、夕食時に合わせて遅らされて、合衆国のお茶の間に夜に伝えられたのである。
直接放送衛星(DBS)を使えば、ある国家の指導者は、他国の人々に直接生で話しかけることの許可を、海外の対立国家から得る必要はない。この能力は現在、低価格で誰でも入手可能になっている。北米上に打ち上げられたヒュー・カンパニーの二つの衛星の150チャンネルDBSコンステレーションは、1994年末にサービスを開始し、だいたい10億ドルかかったが、その後の同様のサービスはおそらくもっとコストがかからないだろう。アジアでのDBS応答機は、おそらく年間200万USドルで安くリースできるが、これはクルド人、過激シーア派、シーク教徒、ビルマ山岳民族の地域であり、彼らが自らのメッセージを巨大な聴衆に対して毎日24時間放送する力を与えることだろう。
超国家的情報スーパーハイウェイの500のチャンネルが現実のものとなったときには、マイクロ放送の増殖によって、グローバリゼーションよりも地方化という逆の効果が促進されるであろうし、世界的イベントの方法は――認知の非CNN化が見られるであろう。利害の一致は、マス・メディアが達するには小さすぎるため、狙い澄まされた方法によって届くことになろう。それぞれのコミュニティのニュースがそれぞれのフィルターと偏向によって変化されるようになれば、大量の聴衆を処理することは次第にむずかしくなってくる。視聴者は、その人自身のニュース放送の形に変えることのできるようなデータ化されたリアルタイムの素材から自分にとって関心のあるニュースとコメントを抽出するために、ネットを散策するコンピューター・エージェントを雇うかもしれない。豊かな社会は、すぐにMe-TVから損害を受けるようになるかもしれない。
CNN、DBSの到来、そしてマイクロ放送とMe-TVの可能性を与えられて、どのくらいまで一方の陣営が相手陣営に影響するようにニュースを処理するだろうか。豊かな国(と魅力的な犠牲者)は、あまりうまくいっていない国々よりも多くの関心を引きつけ、近づきやすいニュース素材は、近づきにくいニュース素材よりも多く報道され(たとえば、ソマリアとスーダンの飢餓情報の差)、ビデオ・カメラは絵になる素材と人の関心を引く物語を追いかける。ビデオが多くカバーしてくれるように演技を行なうことは、長い歴史を持っている。
しかし、ランダムで、理解可能な偏向は、特定の方向に向いた事件の提示を処理するための能力には及ばない。国際メディアは戦争において、力強く系統的な影響があるが、彼らはめったに一方の陣営やもう一方の陣営を一貫して報道するわけではない。米国国防総省の不満の多くは、合衆国の無法な敵がメディアの賢明な操作によってアメリカ大衆に説得することができるというものだった。テレビは広く存在しており、合衆国にとっていいものも同じくらい与えられていたというのが実態である(たとえば、この事業における能力をもつ代理人として、政治顧問と公務員も輸出しているのである)。
何とも奇妙なことだが、与えられた時間でメディアは完全に円熟することができる。「フォレスト・ガンプ」や「ジュラシック・パーク」が典型的に示したように、巧妙に合成した出来事も可能なのである(モーフィング(テレビやコンピューターの画面で画像を変形させること)は、1994年議会選挙中両陣営の宣伝でも際だっていた)。洗練されたニュースの視聴者は、すでに、あるチャンネルの短いレポートを確認するために、他のチャンネルを見るという方法を理解している。もし操作が役に立つなら、個人的に信頼されたニュースの情報源についての考え方は、公的情報源の現在の概念に取って代わるであろう。メディアを通して相手を情報操作したいと思っている陣営は、目標となる人々の多くは何でも信じやすいが、一部は何も信じず、一部はメディアが送信したことと何でも反対のことを信じ、残りは自分自身の世界にいるということがわかるだろう。
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