------------------
生物化学兵器の種類と性質一覧表
------------------

和気朗著『生物化学兵器 知られざる「死の科学」』中公新書98(昭和41年3月)より(一部誤字修正)


------------------

化学兵器

表9 最近のガス兵器の種類とその性質(20℃でガス状態でなくとも、現在、散布はすべてエアゾールでできる)[pp78-79]

種類 名称 米軍記号 化学構造式 20℃での状態 におい 持久度 医学的効果 作用の速さ 水との作用 腐食性 LD50 mg/m3
神経性 タブン GA 無色または淡褐色液体 わずかに果物臭 持久性 神経機能を侵し、致死効果あり 極めて迅速 極めて徐々に加水分解 なし 400
サリン GB 無色液体 無臭 一時性 鉄をわずかに腐食する 100
ソマン GD 400
糜爛性 イペリット(マスタード) H3 (ClCH2CH2)2S 無色液体 無臭 持久性 目、皮膚、呼吸器を傷害する 数時間〜数日間、比較的緩慢 極めて徐々に加水分解 少なし 吸入1500
ルイサイト L1 ClCHCHAsCl2 刺激は敏速、効果は緩慢 容易に加水分解 あり 吸入1500
窒息性 ホスゲン CG COCl2 無色気体 リンゴ腐臭 一時性 肺傷害致死効果 やや緩慢 急速に加水分解 水分あるとき金属を腐食 3200
塩素 Cl2 緑黄色気体 さらし粉の臭 水と化合し、塩素酸を作る 3200
嘔吐性 アダムサイト DM NH(C6H4)2AsCl2 黄緑色固体 刺激臭 一時性 上気道を刺激する 迅速 水に溶けにくい 鉄、真鍮を腐食 30000
ジフェニルクロルアルシン DC (C6H5)2AsCl 白〜褐色固体 少ない 15000
催涙性 クロルアセトフェノン CN C6H5CCH2Cl 黄褐色固体 芳香性刺激臭 一時性 目に対して刺激性あり 迅速 水に溶けにくい なし 11000
ブロムベンジルシアニド CA C6H5-CH-Br/-CN 無色液体 芳香性からし臭 目、鼻を刺激 極めて徐々に加水分解 15000
クロルベンジルマロノニトリル CS C6H4CH2CCl-CN/-CN 白色結晶固体 刺激臭 嘔吐性あり
血液毒 青酸 AC HCN 無色液体 苦扁桃の臭 一時性 呼吸障害 極めて迅速 極めて徐々に加水分解 少ない 2600
クロルシアン   致死効果 容易に加水分解  


------------------

生物兵器

表14 最近のおもな生物兵器の種類とその性質(ロスチャイルドによる)[pp150-151]

種類 病名 病原体 感染経路 潜伏期 死亡率 免疫 感染性 処置 備考
自然流行 人為流行 自然 人工
ウィルス 天然痘 天然痘ウィルス 接触、媒介物、空気感染など エアゾール、水、媒介物による 6〜22日 免疫6〜10%
無免疫25〜40%
あり あり 非常に高い なし 大量吸入には免疫も無効
オウム病 オウム病ウィルス 鳥類の糞が乾燥、空気感染 エアゾール、水、食物など 1〜5日 処置<2%
無処置95〜100%
あり 比較的高い テトラサイクリンなど抗生物質 診断が困難
日本脳炎 日本脳炎B型ウィルス 蚊、鳥類、ブタから人へ エアゾール、昆虫による 7〜21日 35〜60% あり あり 低い なし 子どもや老人が罹患しやすい
ベネズエラ馬脳炎 ベネズエラ馬脳炎ウィルス 蚊、鳥類から人へ エアゾール、昆虫による 2〜5日 <1% あり あり 低い なし インフルエンザ類似症状
黄熱病 黄熱病ウィルス エアゾール、昆虫による 5〜10日 30〜40% あり あり 低い なし 急性
リケッツィア 発疹チフス 発疹チフスリケッツィア ノミ、シラミから人へ空気感染 エアゾール、水、媒介物、昆虫 5〜15日 処置<5%
無処置10〜40%
あり あり 非常に高い クロラムフェニコールなど抗生物質 シラミによる媒介は非常に危険
ロッキー山紅班熱 ロッキー山紅班熱リケッツィア ダニ エアゾール、昆虫による 2〜14日 処置<1%
無処置10〜90%
あり あり (危険) 低い 最も強烈なものの一つ
Q熱 Q熱リケッツィア 動物、ダニから空気感染 エアゾール、水 14〜26日 処置<1%
無処置1〜4%
あり あり (危険) 低い 程度まちまち
細菌 炭疽 炭疽菌 動物から経皮経口空気感染 エアゾール、食物による 1〜7日 処置5〜20%
無処置 高い
不明 あり 低い ペニシリンなど抗生物質
ブルセラ症 ブルセラ菌 皮膚の傷、水、動物から人へ エアゾール、水、食物、昆虫 3〜21日、ときに数ヶ月 処置<2%
無処置2〜5%
なし 低い 特異的なものなし 不規則に発熱。筋肉が痛み衰弱
コレラ コレラ菌 ハエ、排泄物、食物など エアゾール(?)、水、食物など 1〜5日 処置5〜30%
無処置10〜80%
あり あり 高い 効果的なものなし 激しい腸疾患
ペスト ペスト菌 ノミ、ネズミ、空気感染 エアゾール、食物、昆虫 1〜10日 処置<10%
無処置30〜90%
あり あり 経路で異なる 抗生物質 処置不十分ではほとんど致死
赤痢 赤痢菌 食物、水、ハエなどから人へ エアゾール、水、食物、媒介物 1〜7日 処置2〜5%
無処置2〜20%
なし なし 高い テトラサイクリンなど抗生物質 子ども、老人に危険
野兎病 野兎病菌 ウサギからダニ、ハエ、食物へ エアゾール、水、食物、昆虫 1〜10日 処置<1%
無処置5〜8%
あり あり 低い 抗生物質 不具を招く
馬鼻疽 馬鼻疽菌 動物、排泄物、空気伝染 エアゾール、水、食物、媒介物 1〜5日 なし なし 低い
腸チフス 腸チフス菌 食物、水 エアゾール(?)、食物など 7〜14日 処置2〜3%
無処置10%
あり あり クロラムフェニコール有効
真菌 コクシディオイドマイセス コクシディオイデス・イミチス 奉仕吸入、皮膚の傷口から エアゾール 1〜3週 非常に低い あり なし 低い 特異的なものなし、外科手術
クリプトコッカス症 クリプトコッカス・ネオフォルマンス 空気伝播による胞子吸入 エアゾール、食物などによる 不明 非常に高い 不明 なし 低い 慢性、致死性
毒素 ボツリヌス ボツリヌス 食物 エアゾール、食物などによる 2時間〜14日 60〜70% なし あり 抗毒素を初期に与えれば有効 最も強い毒力


------------------

------------------
Designed by Ishihara Mitsumasa / 石原光将