闘戦経
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闘戦経序闘戦全経は、本朝兵家の蘊奥、我が家の古書なり。鬼に先ち神に先ち、智、陰に勝ち陽に勝つの機、此書に在らずんば能はざるなり。故に奥羽の逆乱、田鴻の乱れ行くに伏賊を察し、鶴岡の災変には、社鳩の忽ち堕つるに刺客を考ふ。爰に歳月旧り、蠹鼠交々噛んで、その伝を失ひ、何人の作述なるかを知らず。或は曰ふ、太祖宰相維時卿の作と。或は曰ふ、太宰帥匡房卿の書なりと。今考ふべからず。之を観るに、登龍の鼎湖を脱し、化鵬の南溟に[者の下に羽の字]る者に在らずんば為すこと能はず。然らずんば鹿門の隠・穀城の老の記する所か。金凾に盛って帝室に蔵すべし。幸に脱して人間に在り。予、幼より老に至るまで、手に巻を捨かず。然りと雖も、未だ玄妙を曉らず。焉を伝ふるに人無く、之を識るに人無し。天寿已に尽んと欲す。故に魯論に效って壁中に蔵し、陰符に擬して石室に置かんと欲す。天機秀発して後世其の人有って識ることを須たんのみ。窃に神明に誓ひ、此の書の不朽を期す。大江某、頓首して記す。 |
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闘戦経終 |
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跋文応仁の逆乱に天下の古書尽く烏有となる。江家の闘戦経一部、幸なる哉其の綱を脱す。昔、狼秦の火、[土巳]上の一編僅かに存すると、時を同じうして語るべし。江帥の聖霊、はた此の書を護るか。江帥の遠裔、大江元綱、之を出羽守武元に授けて曰く、兵家の極秘、品々此の書に在り。熟読永久にして、自然、関を脱すべし、と。武元亦曰く、此の書、伝ふべからず。聖に非ず智に非ずんば、奈何にすべき、と。夫れ以(おもんみ)るに、古今の兵書、専ら奇正権譎に在り。此の書は奇に在らず、正に在らず、権に在らず、譎に在らず。天地と理を同じうし、陰陽と化を合す。説き来り却って天地陰陽に在り。初めて信ず、其の作、聖にして神なるものを。我が国に於ける[山空][山同]天機の書、霊厳握奇の文なり。 江家兵学の正統、真人、正豊、敬書。 |
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石原光将 ISHIHARA Mitsumasa |